つなぎFARM 篠原智和さん・坂口信行さん(葦北郡津奈木町)

2021 4/03

篠原 智和(しのはら ともかず)さん・坂口 信行(さかぐち のぶゆき)さん

農園名つなぎFARM
所在地葦北郡津奈木町
栽培品目米・大根(寒漬大根に加工)など

津奈木町は、海と山の広がる自然豊かな町。令和2年7月豪雨では河川の増水による護岸の崩壊や土砂崩れ、農業用施設などの被害があり、復旧復興が進められています。この町で豊かな水や土地を汚さない農業を行おうとはじまったのが「つなぎFARM」です。自然栽培に取り組む農家さんたちが個人やグループで、野菜の栽培のほか、加工などにも取り組んでいます。

今回は「つなぎFARM」の中心的人物、町役場で働く篠原さんと農家の坂口さんのお二人にお話をうかがいました。

篠原 智和さん

自然栽培で津奈木の環境を守る

そもそも「つなぎFARM」をやりたいと思ったのは、やはりここ津奈木町が水俣病の被害が大きかった地域であることも関係しています。環境を汚してしまったばかりに、悲しい歴史をつくってしまいました。こういう歴史のある町だからこそ、自然環境を大切にし、環境を守る農業を進めていきたいなと。

環境保全型の農業はいろいろありますが、津奈木町で推進しているのは自然栽培です。これは農薬や化学肥料だけでなく、魚粉や牛糞などの有機肥料も使わない栽培方法です。私が自然栽培に着目したのは、環境への負荷が小さいことにあります。

肥料を与えすぎてしまうと硝酸態窒素*1が増え、地下水や土壌を汚染してしまう可能性があります。もちろん、生き物の体にもよくありません。水と土と緑肥、これだけで作物を作れば、地下水も土壌も守ることができると考えています。

津奈木町の海や山を守るのも私の仕事の一つ。しっかりと守って、後世につないでいきたいと思っています。

大根のほ場
大根のほ場2

寒漬大根の伝統を継承したい

津奈木町の取り組みとして行なっている行事のひとつに、寒漬大根づくりがあります。寒漬大根は、ここ水俣葦北地域の伝統食。昔は冬に家ごとにつくっていましたが、最近はつくる人も少なくなっています。そこで坂口さんたちと一緒と考えたのが、耕作放棄地を有効利用するために大根をつくって、その大根を寒漬大根にして販売することでした。

栽培は「つなぎFARM」の主力メンバーである坂口さんを中心に、収穫や加工は、2013年から農業体験プログラムとして、地元の津奈木中学校の生徒が中心に行っています。2020年度は種まきから生徒と行っています。

まずは、耕作放棄地を耕して、大根の栽培をスタート。肥料は、景観も考えてひまわりを緑肥として使います。防虫用マルチさえしておけば丈夫に育ちます。次に、津奈木中学校の生徒の出番です。大根を収穫する、洗う、干す、樽に漬け込むといった加工の作業すべてを生徒が行います。冬の青空のもと、中学校の校舎にずらりと大根が干されているのはなかなか壮観ですよ。自分たちでつくった寒漬大根は生徒たちにも好評で、この味を受け継いで欲しいなと思います。

耕作放棄地 「こんな状態からほ場にしました」
中学校収穫大根

津奈木町を自然栽培の町として有名にしたい

津奈木町では現在、自然栽培を志す新規就農者を募集しています。坂口さんたちを中心にきちんと指導なども行って、多くの方に来てもらって、農業で頑張ってほしいですね。興味がある方、お問合せを受け付けていますのでお尋ねくだい。

ここ津奈木町で、自然栽培で安全・安心な美味しい野菜ができる、しっかりと収入を得ることができる、ということをモデルケースにできれば、就農したいという若い人も集まるでしょうし、ひいては町自体も盛り上がっていくでしょう。津奈木は県内でも知らない人がいるちょっとマイナーな町なんですが、県内での津奈木町の知名度を自然栽培でアップしてきたいと思っています。津奈木町が自然栽培の町として注目され、若い人たちにも住んでみたい町と思ってもらえるようこれからも頑張りたいと思います。

大根の葉を見る篠原さん
つなぎFARMポスター
坂口 信行さん

津奈木町の農業を影で支える

うちは代々農家で、津奈木町の中でも作付けの面積が広くて余力があったので、「アグリ津奈木」という会社をつくって農業作業の業務委託を受けています。

今、農業に携わる人の多くは高齢者。なので、田植えや稲刈り、除草作業、農薬散布などを近くの農家さんに代わって行う業務委託が欠かせないんですよ。これからは私たちみたいな仕事をやる人が増えていくんじゃないですかね。「アグリ津奈木」は私と息子、もう一人のスタッフで回し、農繁期には雇用して作業しています。

そして「アグリ津奈木」として、「つなぎFARM」に参加しています。うちでは現在、3.6haの田んぼでお米を栽培し、20aほどの畑で大根を自然栽培でつくり、寒漬大根に加工して、「つなぎFARM」の取り組みとして販売しています。

3種類の寒漬大根
左寒漬大根を作る津奈木中学校 右つなぎ温泉ここのレストランで寒漬大根が食べられます

町役場の篠原さんと共に自然栽培で町づくり

私が父親から農業を継いだときのほ場はすべて慣行栽培*2でした。そんな私が自然栽培に取り組んだきっかけは、役場の担当・篠原さんに口説かれたから。それはそれは熱心に環境のこと、津奈木町の未来のことなんか話すもんだから、段々とやろうかなという気になりまして(笑)。「つなぎFARM」のメンバーも篠原さんを中心に集まってきた人たちばっかりなんですよ。

寒漬大根の加工も、津奈木中学校の農業体験のプログラムも、篠原さんと一緒に考えたもの。2020年から栽培をはじめた酒米・山田錦は、地元の酒蔵・亀萬酒造にも買ってもらって日本酒を作ってもらってるんです。人脈もあるし、ほんとすごい人ですよ。

こうやって行政と一緒になって農業を進められるのは、やりがいがあります。これからも町とアイデアを出し合いながら新しい町づくりをやってみたいなと、夢は広がります。

篠原さんと坂口さん
収穫から加工まで津奈木中学校の生徒が行います

自然栽培で稼げることを次世代の人たちに見せたい

世間の人たちは、「農業って大変なのに儲からない」って思っているんじゃないですかね。特に自然栽培など、環境保全型の農業でやっていくのは難しいと思っている人は多いですね。確かに、それは間違いじゃない部分もあるかもしれません。

でも、それが全部じゃない。私が慣行栽培、自然栽培両方を並行してやってみて感じたのは、トータルでの収入はそれほど変わらないということです。

慣行栽培は農薬や化学肥料の購入資金が必要ですが、自然栽培にはその資金が必要ない。そして、慣行農法よりも自然栽培のほうが若干収量は劣るものの農薬等の購入資金がいらないから、収支はトントンです。さらに、作物によっては労力も格段に減りますし、自然栽培の野菜は丈夫で病気も広がりにくいんですよ。自然栽培ってことで付加価値もつくし、金銭的にもいけるんじゃないかな。

最近息子と一緒に農業をやるようになって、自然栽培で儲ける道をつくりたいと思っています。2年ほど前にドローンを買ってスマート農業もやってまして。次の世代の人たちに「農業ってカッコいいな」「自然栽培って儲かるんだな」と肌で感じてもらえれば、農業の未来につながっていくんじゃないかと思っています。バリバリ稼いで、いいとこ見せたいです(笑)。

大根の葉を見る坂口さん
つなぎ百貨堂外観_つなぎFARMの商品はここで購入できます

*1 硝酸態窒素は窒素化合物のひとつで野菜の成長にも必要とされる養分だが、多すぎると環境にも人体にも悪影響を及ぼすといわれている。特に肥料を多く与えることで、過剰になるという。
*2慣行栽培とは、一定の基準に従って化学肥料や農薬を使う一般的な農法のこと。

大根
つなぎFARMの寒漬大根や野菜と出会えるところ

つなぎ百貨堂(つなぎ町物産館 グリーンゲイト)で、寒漬大根などが購入できる。また、隣の津奈木温泉四季彩内レストランでは定食のお漬物として寒漬大根を楽しめる。

津奈木町ホームページ(「つなぎFARM 」情報掲載ページ)
http://www.town.tsunagi.lg.jp/

つなぎFARM Facebook
https://www.facebook.com/tsunagifarm/

篠原 智和さん プロフィール
津奈木町出身。津奈木町役場職員。つなぎFARMの担当者。普段は、果樹振興や新規就農者支援などの業務を行い、津奈木町の農業振興に携わっている。

坂口 信行さん プロフィール
津奈木町出身。「株式会社アグリ津奈木」代表。津奈木町で代々米農家を営む。自然栽培、その商品開発に取り組むほか、近隣の田植えや稲刈り、除草などの農作業の受託も行っている。